mirayume

さら、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。 あなたは身ごもって女の子を産むが、その子をアリスと名付けなさい。

5月31日

恋人の命日だった。


朝から発狂していて彼氏とナイフを取り合ったりしていたけれど、恋人のご両親と会えることが分かると途端に元気になった。
妹さんから「3時にお墓集合!」というLINEが来て、笑ってしまう。
あれこれと服を着替えていて遅刻しかける、湘南新宿ラインに乗る、目の前でお墓に向かうバスが行く。
仕方ないからタクシーで向かっていると、恋人のお母さんから電話がかかってくる。
お墓に着いたらお母さんがすでにいて(お父さんはいなかった)窓の外からタクシー代2200円を払ってくださった。

お墓参りをする。曇っていて少し寒い。それでもお母さんが日傘をこちらに差してくれる。その先端が結った髪にひっかかって、とても謝られる。
お墓は雑巾で掃除しないといけないと細木数子が言っていた、と言われたので、わたしは墓石を雑巾で清める。丈の長いマーメイドスカートを履いてきたのは間違っていた。裾を何度も踏む。

わたしは恋人のお母さんをなんと呼んでいいかわからない、「(妹さん)のお母さん」と呼んでいるけれど、長ったらしくて、そもそもわたしは恋人の恋人なのだから、妹さんの名前を借りるのはおかしい気もする。

恋人のお母さんの携帯の調子が悪いので、auショップに行く、auのカードを使って、そこから携帯代を引き落とすとお得らしくて、カードを作っていた。黄色い欄は必ず記入する欄。子供は、というところに「ひとりです」と答えていて頭ががあんと殴られたような気持ちになる。携帯ショップではわりかし待ったので、さらちゃんごめんねと言われて、近くのお寿司屋さんに行く。

お寿司屋さんでカウンターに座る。会話の雰囲気が親子ではなかったのだろう。大将に「習い事のご関係ですか?」と訊ねられる。「息子の彼女なんです」と返される。また頭ががあんとなる。「結婚するんですか?」と言われる。「どうでしょうねえ」とお母さんは笑う。カラッとした笑い。それからも茅ヶ崎からは富士山が見える話をしていて、わたしは東京に住んでいるので新幹線からしか見たことがないと言うと「嫁げば毎日見られますよ」と言われる。どんどん胸に針が刺さっていくようになる気持ちと、そうなったらいいなという気持ちがごちゃごちゃになる。ああ、お寿司はおいしい、日本酒がおいしい。おいしい食べ物があってよかった。そうじゃないとわたしはどうかしてしまっていた。

お寿司を食べ終わって、20時ごろ、駅に向かう。湘南新宿ラインの快速が8分にあるじゃない、と背中を押されるように改札の前へ行く。中に入る前に、いつもお墓に来てくれてありがとうと、封筒を鞄にねじ込まれる。初めは断ったけれど、いつも来てくれているから、と言われたので、ありがとうございますと受け取る。

家に着く。ずっとナイフはハンカチに包まれて鞄の底にあった。使うことがなかった。お礼のメールを返そうとしていると先に来る。わたしは少し迷って「お母様」という単語を使う。