mirayume

さら、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。 あなたは身ごもって女の子を産むが、その子をアリスと名付けなさい。

5月21日

精神科へ行く。同居人がついてきてくれた。カウンセリングでたくさん泣いてしまう。お寿司を食べて成城石井でチーズケーキを買った。


お酒を飲んで、『青野くんに触りたいから死にたい』を読むと気持ちが沈んだ。ほんとうに死んだ人間がこのようにして現れたらいいのに。わたしは本棚の横に立たせることしかできなかった。恋人に触れるなら死んでもいいのだけど、死ぬことは二人でいた記憶をこなごなにしてしてしまうことだという気持ちもある。死んだらどうなるのかわかっていれば今すぐ死ぬのだけれど。

京都にいたころ、化野念仏寺に行ったことがある。お盆に帰省しなかったことを弟に咎められたせいだ。どうせ帰省しても墓参りすらしないのに。それならばと思って、たくさんお墓があるところにいくことにした。母親が一八のときに着ていたという黒い服を身につけて、サンタ・マリア・ノヴェッラのキョートという香水をふった。あれはデパートの中にお墓が立ち並んでいるような匂いがする。いい匂い、だけど不謹慎な匂い。あのとき、偶然見つけた甘味屋で桜餅を食べていると、とつぜん雨が降ったのを思い出す。なぜ真夏に桜餅が売っていたのか、ぜんぜんわからない。もうすぐ雨が降るからお上んなさいというようなことを言われたのだ。そうしたら目の前が真っ白になるような雨が降って。あれはゆめまぼろしだったのかもしれない。
お店を出ると、またひどい炎天下。歩いていると運動会の保護者席みたいなテントが立っていて、人々が集まっている。これはなにかと尋ねると、浴衣を着た少女が「護摩木です」と言う。ここに死んだ人間の名前を書いて燃やすと、供養されるのだという。わたしは戒名を書いた。あの夏の鳥居の文字に恋人の名前が燃えている。